アンタはどう思うんや?
パナソニックの創業者の松下幸之助といえば、数々の名言を残した
経営者の一人です。中でも有名なのが「あんた、どう思う?」という
質問です。
たとえば、氏に薫陶を受けた岩井虔氏は、来る日も来る日も質問攻め
にあったそうです。
「布団の中でこんなことを考えたんやけど、君どう思う?」「新聞見
とったら、こんどの台風で崖崩れが何件もあった。君らどう思う?」
と(岩井虔『松下幸之助 元気と勇気がわいてくる話』PHP研究
所)。
いきなりトップからそんな質問をされたら、目を白黒させてしまい
ますよね。まさに、準備しようのない試験を、毎日のように繰り返さ
れるようなものです。何と返事すればいいのか、大いに悩んだことで
しょう。
しかしながら、そんな問答を重ねるうちに、社長の意見に賛成だろう
が反対だろうが、「私はこう思います」と格好つけずにハッキリ言え
ばいいんだと、少しずつ分かってきたそうです。
他に私が好きなのは「それでお客様は喜びますか?」という質問で
す。顧客志向をたたき込むのに、これほどシンプルで力強い質問はあ
りません。
優れたリーダーというと、自らの信念に基づいてチームをグイグイと
引っ張っていくイメージがあります。もちろん、それも必要なこと
ですが、チーム自らが考え、行動するようにしないと、どこかで行き
づまってしまいます。チームを育てるためには、リーダーの質問が鍵
となるのです。
■「他者説得」より「自己説得」を
こちらが期待する行動を相手にとらせるのに大きく2つの方法が
あります。
一つは、「どうしてほしいか?」「何が必要か?」を説明して、その
とおりに動いてもらうやり方です。「他者説得」と呼びます。もう一
つは、どんな行動が望ましいかを相手に考えさせて、自らの判断と意
思で動くようにする「自己説得」です。
人は、自分のことは自分で決めたいと思っています。他人から一方的
に説得されたり、選択肢のない中で決めるのは、好きではありませ
ん。首尾よく説得に応じたとしても、後悔や蒸し返しをしたりする
恐れがあります。他者説得では納得感が乏しいのです。
それに対して、自分の考えで決めたとなると、納得感が高い上に、
「これでよかったんだ」と自分で自分を説得するようになります。
「一貫した人でありたい」と思う心理とあいまって、どこまでも決め
たことを貫き通そうとします。
メンバーに何か依頼をするときは、なるべくなら自己説得を使いたい
ところ。活用すべきフレーズとしては「どうしたら」(どうやった
ら、何をすれば、どんなことが)です。
NG「売り上げが落ちている。すぐに原因を調べてくれないか」
(他者説得)
OK「売り上げが落ちている。どうしたらいいと思う?
(何ができるだろうか?)」(自己説得)
ただし、これはあくまでも考えさせるための質問であって、相手の
責任を追及したり、非を糾弾したりする口調にならないように。
でないと、かえって自発的な行動に水を差してしまいます。
NG「売り上げが落ちている。どうしてくれるんだ!」
■期待する答えが出るまで質問をする
こんな話をすると、「こちらが期待する答えが返ってこなかったら、
どうするの?」と考える人がでてきます。結局、「そうじゃない。
○○をするんだ」と、他者説得になるのではないかと言うのです。
こちらが正解を言うのは簡単ですが、時間が許す限りギリギリまで
考えさせるのに越したことはありません。返ってきた答えを元にし
て、さらに考えを深めるように促すようにします。
OK「どうしたらいいと思う?」「何か対処が必要ですね」
「たとえば、どんなこと?」
OK「どうしたらいいと思う?」「とりあえず△△を……」
「つまり、何をするの?」
OK「どうしたらいいと思う?」「○○をしましょうか」
「他に、ないかな?」
OK「どうしたらいいと思う?」「Aもあるし、Bもあるし……」
「中でも、どれが重要?」
OK「どうしたらいいと思う?」「特に思いつきません」
「あえて(仮に)、挙げるとしたら?」
このあたりのフレーズについては、過去の連載で詳しく解説しまし
た。具体化、抽象化、選択肢の拡大、優先順位付け、強制(仮定)
発想など、思考をあちこちに振ることで考えが深まっていきます。
詳しく知りたい方は、拙著『ワンフレーズ論理思考』(日本経済新聞
出版社)をご覧ください。
それが面倒な方は、自信を尋ねる質問をするのが近道です。自分の考
えを疑ってみることで、思考が深まるからです。
OK「どうしたらいいと思う?」「□□はどうでしょう?」
「本当にそれでいいんだね?」
■メンバーにあった説得の仕方がある
とはいえ、すべての人に対して自己説得がよいとは限りません。
チームメンバーを、ザックリと「やる気(will)が高いか低いか?」
「能力(skill)が高いか低いか?」の2つの軸で分類して考えてみま
しょう。
やる気も能力も高い人は、手出しをせずに当人に委ねるのが一番で
す。こちらから質問すらする必要はなく、事実や情報だけ伝えれば
勝手に動いてくれます。
一方、能力が高いのにやる気が低い人は、何らかの方法でやる気に火
をつけなければ宝の持ち腐れです。そのために最適なのが、本稿で紹
介した質問です。自分で考えさせ、自分の能力でできることを見つけ
てもらうのです。
やる気が高くても能力が低い人は、適切なスキルが身につけられるよ
う、指導する必要があります。考えさせるのも結構ですが、正解を教
えないといけない場面が増えてきます。
残念ながら、やる気も能力も低い人に自己説得は使えません。他者説
得で指示をして、強制的にやらせるしかありません。経験を増やすこ
とが先です。
こんなふうに、その人に合った依頼の仕方をしないと、親心がかえっ
てあだになってしまいます。「メンバーが期待通り動いてくれない」
と悩む人がいたら、「相手にふさわしいやり方をしているか?」を
チェックしてみてはいかがでしょうか。
■相手が気づくまで根気よく待ち続ける
松下幸之助の話に戻すと、同じく薫陶を受けた江口克彦氏が著書の
中でこんなエピソードを披露しています。
ある日、江口氏は、面会予定の著名な学者について「君、どういう人
か知ってるか?」と尋ねられました。突然の質問に戸惑い、精一杯の
知識を披露して、どうにか役目を果たしました。
にもかかわらず、翌日にまったく同じ質問が飛んできます。「質問し
たことを忘れたんだ」と思って、同じ答えをしたところ、さらに翌日
も同じ質問をされたというのです。
「ずいぶんいい加減に人の話を聴いているなあ……」と、さすがに
憤りを感じた江口氏。あるときふっと思いました。質問したことを
忘れているのではなく、答えが不十分だからではないかと。
そう考え、徹夜してその人物のことを徹底的に調べ上げたところ、
予想通り4度目の質問がありました。そこで30分かけて説明をした
上に、内容を録音したテープまで渡すと、ようやく「よう、わかっ
た」と得心した様子になったそうです。
江口氏は、22年間共に仕事をする中で、「それは駄目だ。答えになっ
ていない」と言うせりふを一度も聞かなかったそうです。同じ質問を
繰り返し、本人が自分で気がつくまで根気よく待ち続ける。その姿勢
に、「若い者を育ててあげたい」という愛情が感じられたと述べてい
ます。
とても凡人にはまねのできない芸当ですが、育成とは「次の世代に未
来を残す仕事」(高橋伸夫)であることを、あらためて感じさせる逸
話です。
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